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最高裁判所第二小法廷 昭和63年(あ)1292号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

一  弁護人葉山岳夫ほか一〇名の上告趣意について

上告趣意第一点の一は、破壊活動防止法三九条及び四〇条は政治思想を処罰するものであり、憲法一九条に違反すると主張する。しかしながら、破壊活動防止法三九条及び四〇条のせん動罪は、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的(以下「政治目的」という。)をもって、各条所定の犯罪のせん動をすることを処罰するものであるが、せん動として外形に現れた客観的な行為を処罰の対象とするものであって、行為の基礎となった思想、信条を処罰するものでないことは、各条の規定自体から明らかであるから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。

同第一点の二は、破壊活動防止法は戦時特別刑法の性質を有しており、憲法九条に違反すると主張するが、破壊活動防止法三九条及び四〇条が所論のような性質を有する規定でないことは、各条の内容に徴し明らかであるから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。

同第二点は、破壊活動防止法三九条及び四〇条は表現活動を処罰するものであり、憲法二一条一項に違反すると主張する。確かに、破壊活動防止法三九条及び四〇条のせん動は、政治目的をもって、各条所定の犯罪を実行させる目的をもって、文書若しくは図画又は言動により、人に対し、その犯罪行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与える行為をすることであるから(同法四条二項参照)、表現活動としての性質を有している。しかしながら、表現活動といえども、絶対無制限に許容されるものではなく、公共の福祉に反し、表現の自由の限界を逸脱するときには、制限を受けるのはやむを得ないものであるところ、右のようなせん動は、公共の安全を脅かす現住建造物等放火罪、騒擾罪等の重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に危険な行為であるから、公共の福祉に反し、表現の自由の保護を受けるに値しないものとして、制限を受けるのはやむを得ないものというべきであり、右のようなせん動を処罰することが憲法二一条一項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)第一三〇八号同二四年五月一八日判決・刑集三巻六号八三九頁、昭和二四年(れ)第四九八号同二七年一月九日判決・刑集六巻一号四頁、昭和二六年(あ)第三八七五号同三〇年一一月三〇日判決・刑集九巻一二号二五四五頁、昭和二八年(あ)第一七一三号同三二年三月一三日判決・刑集一一巻三号九九七頁、昭和三三年(あ)第一四一三号同三七年二月二一日判決・刑集一六巻二号一〇七頁、昭和三九年(あ)第三〇五号同四四年一〇月一五日判決・刑集二三巻一〇号一二三九頁、昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日判決・刑集二七巻四号五四七頁)の趣旨に徴し明らかであり、所論は理由がない。

同第三点は、破壊活動防止法三九条及び四〇条のせん動の概念は不明確であり、憲法三一条に違反すると主張する。しかしながら、破壊活動防止法三九条及び四〇条のせん動の概念は、同法四条二項の定義規定により明らかであって、その犯罪構成要件が所論のようにあいまいであり、漠然としているものとはいい難いから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない(最高裁昭和三三年(あ)第一四一三号同三七年二月二一日大法廷判決・刑集一六巻二号一〇七頁、同昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和四二年(あ)第二二二〇号同四五年七月二日第一小法廷決定・刑集二四巻七号四一二頁参照)。

同第四点は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

二  被告人本人の上告趣意について

上告趣意のうち、破壊活動防止法三九条及び四〇条につき憲法九条、一九条、三一条違反をいう点は、前叙のとおり、いずれも所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらず、破壊活動防止法三九条及び四〇条につき憲法二一条一項違反をいう点は、前叙のとおり、所論は理由がなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

三  よって、刑訴法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 奧野久之 裁判官 中島敏次郎)

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